面接官が聞いていたのは、誰の声?
国外在住の候補者と行う、オンライン面接。
インターネット越しに会う初対面の候補者たちは、緊張しながらも一生懸命日本語を話そうとしてくれる。
この日も例外ではなかった。
最初の印象はとても良く、自己紹介も丁寧で発音もはっきりしている。
受け答えも自然で、「これは期待できそうだな」と思った矢先――私は少し“意地悪な質問”を投げかけてみた。
「〇〇さんは、日本でどんな経験をしたいですか?どう成長したいですか?」
これはよく聞く質問だけれど、内容はやや抽象的で、自分の言葉で考えてもらわないと答えにくい。
ちょっと困らせたかな…
圧迫面接っぽく聞こえてないかな…
こっちも少しハラハラしていた。
その時だった。
候補者の目線が、ふとカメラの“向こう”へ向いた。
次の瞬間、
小さな女性の囁き声が、マイクにうっすら入った。
日本語と、候補者の母国語が交互に聞こえる。
そして間を置かずに――
候補者はすらすらと、まるで用意していたかのような回答を話し始めた。
内容も立派だった。夢も具体的。
でも、違和感だけが先に届いた。
そこで終わらせず、私はちょっとだけ聞いてみた。
「今、誰かと一緒にいらっしゃいますか?」
すると彼は、少し照れくさそうに笑いながら答えた。
「はい、姉がそばにいます。日本語、上手で…助けてくれてました。」
なるほど。聞こえたあの声は、お姉さんの声だったのか。
さらに聞いてみると、そのお姉さんは日本語能力試験N2を持ち、一時は日本にも住んでいた経験があるという。
どうやら、家族で面接対策をしていたらしい。
その後の会話でも、話題は少しずつお姉さんに向いていく。
「お姉さんはどうやって日本語を学んだんですか?」
「日本では何をしていたんですか?」
すると不思議なことに――
候補者本人の言葉が、だんだんと自然に出るようになってきた。
自分の話は緊張してしまって言えなかったけれど、
“姉のこと”なら、自分の言葉で語れるらしい。
やがて本人の目も、カメラの中のこちらをまっすぐ見てくれるようになった。
結局、その面接では私は、お姉さんの存在を通して彼を知ったのだと思う。
そして少しだけ、面接というものは「その人を知る場」であって、「試す場ではない」と、改めて感じた。
和歌でひとこと
囁きの 声は姉なる 応援歌
本人以上に 伝わる誠実
#採用のこと日誌
面接の現場でふと笑えたり、ふと立ち止まったりした瞬間を綴るシリーズです。
今回は、カメラ越しに“もうひとりの応援団”が見えたお話でした。
次回もどうぞ、お楽しみに。
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