たそがれ妄合法録 第十三法廷:「緊急車両通ります」の効力は歩道にも及ぶのか

たそがれ妄合法録

※本記事は、日常の出来事を材料に法律を“読み解いて遊ぶ”読み物です。
一般的な情報提供を目的とし、正確性・最新性を保証しません。法的助言ではありません。
個別の状況(場所・信号・警察官等の指示・危険の程度)で結論は変わります。必要に応じて専門家や関係機関にご確認ください。


◆ 開廷:緊急車両が通るとき、空気が一枚になる

昼どき。駅へ急いでいた私が差し掛かった横断歩道で、救急車が急いでいた。
サイレンと「緊急車両通ります」のアナウンス。
誰かが号令をかけたわけでもないのに、人の流れがすっと止まる。

あたかも親切心とマナーの塊のように、私も立ち止まった。
あの“立ち止まる一体感”は、日本の風情──枯山水のようである。
(風情は置いといて。)

また別の日。
「50代になると体力が落ちるから今から頑張れ」と、余計なお世話を受けてランニングに出かけた。
歩道を曲がったところで消防署のシャッターが開きそうになっていて、慌てて通り過ぎようとしたら、隊員の方に言われた。

「緊急車両が出ます」

私は思った。
緊急車両って、歩道でもこんなにも優先だったっけ?
そして、この疑問を考えることが意外と多い気がする。


◆ 争点:歩行者には「避譲義務」があるのか

ここからは、整理する。
ポイントは次の3段構えだ。

  • 横断歩道では誰が優先?(道路交通法 第38条)
  • 緊急自動車への「避譲」は誰に義務?(道路交通法の規定)
  • 消防車だけ別ルール?(消防法 第26条)

1)横断歩道では、緊急自動車でも歩行者を妨げちゃいけない?

まず、横断歩道の基本はこれ。
道路交通法 第38条1項(後段)は、車両等に対してこう言う。

横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、
当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

ここが面白いところで、条文上「緊急自動車は除く」とは書いていない。
したがって、条文を素直に読むと、

「横断歩道で歩行者が横断中・横断しようとしているなら、緊急自動車でも妨げない(必要なら一時停止)」

という結論が“まず”出る。
(もちろん現場では安全確保が最優先なので、歩行者側も無理はしない。)


2)じゃあ「第39条(緊急自動車優先)」で、歩行者は避ける義務になる?

ここが書きたい核心。
道路交通法上、緊急自動車の優先や定義は第39条に関係し、実務的な避譲の作法は第40条などに整理されることが多い。

ただ、ここで慎重に言い方をするなら――

「緊急自動車が来たら進路を譲れ」という規定は、主に“車両側”の話として書かれている
(条文の文言上、歩行者がどこまで直接に義務主体として読めるかが微妙になりやすい)
「義務」という言葉で一律に括れないだけで、歩行者も当然に危険を避け、緊急走行を妨げない行動が期待される。
→ 結局は“安全確保の常識”が勝つ(指示があれば従うのが無難)。

歩行者に「必ずこう動け」と一本道で書かれているわけではない。
でも、現場でサイレンが鳴ったら、条文より先に“安全”が来る。


3)消防車だけは別ルール?(ここがややこしくて面白い)

さらに話をややこしくするのが、消防法 第26条

消防法第26条では、

消防車が火災の現場に赴くときは、車馬及び歩行者はこれに道路を譲らなければならない。

つまり、消防車(火災現場へ向かうとき)については、歩行者も「道路を譲る」ことが明記されている

ここで「道交法と消防法で結論が違うの如何なものか問題」が発生する。
同じ“緊急車両っぽい存在”でも、消防車は消防法が別に刺さってくる。

  • 救急車・パトカー等:道交法の枠で整理しやすい(横断歩道は第38条が強い)
  • 消防車:火災現場へ向かう場合は、消防法26条で歩行者にも「譲る」規定が出てくる

◆ 結論:条文の綱引きはある。でも私は止まる

整理するとこうなる。

  • 歩道では、車両側(緊急自動車を含む)が歩行者の通行を妨げない原則がある(道交法38条)
  • 緊急自動車への避譲は、条文上は車両側の義務として明確化される場面が多く、歩行者に一律の「避譲義務」を“直接”導けるかは慎重
  • ただし消防車(火災現場へ向かうとき)は、消防法26条で歩行者にも「譲る」が明記されている

……と、ここまで整理しておいて、身も蓋もないことを言う。

サイレンが聞こえたら止まる。
法律の解釈で勝っても、救急隊員の視界で負けたくない。

あの「一体感」は、たぶん法の力じゃない。
“もめない知恵”が、自然に共有されているだけだ。


◆ 付記(私の小さな解決)

出動口の前で「緊急車両が出ます」と言われたら、
私は素直に下がることにした。
あそこは法廷じゃなくて、現場だ。

そして次に同じ場面に遭遇したら、こう思うことにする。

ここで動いたら、私のモラルが意識不明の重体だ

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